
2020年2月、三菱製紙 高砂工場を
視察させて頂くチャンスを頂きました!
三菱製紙の創業の地である高砂工場!
いったいどんな歴史や生産技術を
持っているのでしょうか。
いざ!工場内へ!


高砂工場の歴史
まずは高砂工場の歴史について教えて頂きました!
高砂工場は三菱製紙のルーツともいえる工場です。
三菱創業者・岩崎弥太郎と親交のあったアメリカ人のウォルシュ兄弟が立ち上げた神戸製紙所 KOBE PAPER MILL(神戸市三宮)を岩崎久弥(弥太郎の長男)が事業継承し、洋紙の抄造および販売を開始しました。(1898年)

(ジョン・ウォルシュ/トーマス・ウォルシュ)
参照:三菱グーループWeb site/三菱人物伝より
神戸製紙所を高砂に移設し(1901年)、その後三菱製紙所が創業しました(1904年)。
今なお工場内では当時のレンガ建築を所々で見ることができます。
甲子園球場で例えると3.2個分にもなる敷地には抄紙機4台、コーターマシーン7台が設置されています。

参照:ウィキペディア

豆知識:岩崎久弥はなんと麒麟麦酒や小岩井牧場の創業をも手掛けたんだワン!
高砂工場の主要生産品
現在高砂工場では以下の紙などが作られています。
①印刷情報用紙
・感熱紙:レシート、ATM用紙、食品ラベル、FAXロール
・感圧紙:複写伝票、領収書、契約書
・磁気記録紙:電車乗車券、駐車券
・トレーシングペーパー(日本において初の国内生産)
②イメージングメディア
・インクジェット用紙:ベース紙の上にインク吸収層を設けることでインクの吸収速度や定着度合い、カラー再現性向上の工夫が施されています。
③機能材製品
・フィルター:住宅やオフィスの全熱交換器
・ガラスペーパー:不織布にガラス繊維を抄き込んだシート。水廻りのクッションフロアーや断熱材に使用されています。
・分離膜基材:海水淡水化や浄水器
・バッテリーセパレーター:バッテリーで電解液を保持しながら正極と負極とを隔離しつつ両極の間をイオン電導性が確保されています。
・リライトメディア:感熱紙技術を応用し、加熱温度・冷却時間を制御することで発色状態と消色状態を自由に選択できる情報記録用紙。ポイントカードやIDカード、物流タグなどに使用されています。

高砂工場4号機
様々な紙を作っている高砂工場ですが、シワシワ通信取材チームが特に知りたかったのは、独特な紙の風合いと万年筆に対応した筆記性を持っている「バンクペーパー」のことでした。
「バンクペーパー」はどうやって作られているのか?
そしてどんな人たちがどんな抄紙機で「バンクペーパー」を作っているのか?
知りたいことが沢山ありました。
バンクペーパーは三菱製紙が1960年に銀行の帳簿用紙として開発した筆記用紙です。
多様なペンに対して良好な筆記特性や事務用としての強度を重視して作られています。
バンクペーパー用の特別な原料は数種類のパルプおよびコットンを独自配合して作られています。
両面使用できるように不透明度を高め、表裏面を感じさせない仕上げをしています。
「THREE DIAMONDS」のウォーターマーク入り。
高砂工場4号機で抄造されています。

参照:三菱製紙高砂工場パンフレットより
長網式抄紙機の高砂工場4号機は網巾2.18m、日産能力35tといったスペックで、主要品目(上質やコートなど)を抄造する大型抄紙機に比べてみると小ぶりで可愛らしいといった感じです。

それもそのはず。4号機の成り立ちは明治時代にまで遡ります。
4号機に備えられたライス・バートン・アンド・フェールス社製のドライホイールには1909年製を示すの刻印がありました。
4号機は抄紙工程ごとに再調整されたり、修理したり、設備刷新されながら、111年(2020年現在)も紙をつくり続けているのです!
現役で抄紙し続けるこの4号機を理解するには3年以上の経験が必要だそうです。


4号機にはサイズプレスパートがあります。
サイズプレスでは紙をでん粉の糊液に瞬間的にドブ漬け後すぐに乾燥を行って、紙の表面にでん粉の被膜を形成させます。
サイズプレスすることで表面強度の調整、水溶液の吸収性やインクの定着度調整を行っています。

カレンダーパートでは紙厚や紙の表面を整えます。
紙の種類によって鉄や樹脂、コットンなどのシリンダーロール類を選択したり、何本のローラーを通すかなど調整されています。

料理人の世界でも下積み期間(うろうろ3年と言われています)の「追いまわし」、つまりお手伝い程度の要員。
そして「八寸場」「焼き方」「煮方」の修行を積み重ね、「花板」を目指しています。
高砂工場においても4号機のような古い機械を習得しマイスターとなるまでに様々な経験を要するのでしょうね。
経験・技術が積み重ねられた先に「バンクペーパー」があるのだと思うと、とても感慨深いですね。

THREE DIAMONDS ウォーターマーク
「バンクペーパー」を透かして見ると「THREE DIAMONDS」のウォーターマークを見ることができます。

4号機ではウォーターマークを入れる方法として、 ワイヤーパートに取り付けるダンディーロール方式とワイヤーパート後のプレスパートで行う凸版プレスロール方式の2種類があります。
同じく4号機で抄造されている「スピカボンド」はダンディーロール方式、一方「バンクペーパー」は凸版プレスロール方式で行っています。
「バンクペーパー」のウォーターマークを入れるにあたっては、強くプレスすると紙切れの原因になり、弱く入れるとマークが見えづらくなることから、抄造毎にマークの見え方を確認しながら、絶妙なプレス具合を調整しているそうです。




4号機建屋
4号機が設置されている建屋は、増改築されながらも創業当初のレンガ壁が今なお健在しています。
泥や粘土が原料のレンガは水分を吸収しやすい性質を持っており、特に湿度の高い工場内の湿度調整にも一役買っていると思われます。
長い年月においてこの工場内の空気を吸って吐いて紙づくりを支えてきたひとつひとつのレンガが愛おしく、思わずザラザラしたレンガ表面に手を伸ばし、ひやりと冷たくも芯には温かさが籠もるレンガの手触りを愉しみました。

このレンガひとつひとつが110年以上も4号機を雨風から守ってきたんですね~。
世界にまだまだ古いレンガ建築もたくさん現存するので高砂工場もこのまま残り続けて欲しいと切に願います。

三菱製紙の気骨
世界最大の抄紙機(中国広東省湛江市にあるChenming Paper PM1)は11.15m幅で1808m/分のハイスピードを誇り、最先端環境のなかで紙を生産し続けています。
一方、高砂4号機のワイヤー巾は2.18mで、バンクペーパーに至っては約80m/分のスロースピードで抄紙されています。
PM1抄紙機に比べると、なんと115分の1という生産効率です。
さらに特殊な季節要因を克服する必要があるため、抄造タイミングは限定されており、年に1、2回のタイミングで抄紙されています。
大型抄紙機が瞬く間に紙を大量生産していることを考えると、バンクペーパーがいかに貴重な紙なのかがわかります。
今なおこういった紙(言い方の替えると非効率な紙 →悪い意味じゃありませんよ〜)を作り続けているという事に、流行や効率以上に大切な何かを守っている三菱製紙の気骨みたいなものが伝わってきました。
もしかしたら、これこそ世界に誇りうる「日本の紙作り」なのかもしれない、と感じました。


高砂工場の可能性
大量消費の時代に対応すべく建造された大型抄紙機とは全く異なる形で現在もバンクペーパーのような貴重な紙を作り続けている三菱製紙高砂工場。
紙作りに対して気概あふれる現場職人の方々とお話していると、もしかしたら大量消費時代の次を迎えようとしている現在において、この高砂4号機の規模と製紙技術と経験ならではの新しい価値を生み出すことができるかもしれない、という想いが芽生えました。
シワシワ通信編集チームはこれからも三菱製紙高砂工場と一緒に高砂工場の紙を盛り上げていきたいと思います。
是非ご期待くださいぃ~!